ドラム缶つぶしへのチャレンジ


このページでは、「科学の祭典鹿児島2003」(於:鹿児島市立科学館、平成15年11月15日〜16日)において筆者が臨んだドラム缶つぶしについて紹介します。

1.きっかけ

  筆者は高校の理科の教員を長年していますが、恥ずかしながらドラム缶つぶしを見たことがありませんでした。1斗缶つぶしは実施したことがあるのですが、迫力にやや欠けます。できることならドラム缶つぶしをやってみたい、そう思っていたら、科学の祭典に出てみないかと実行委員長直々のお誘いがあり、大学院の同級生(とは言っても歳はかなり離れているが)を誘って、「ドラム缶つぶし」で科学の祭典に参加することになりました (後でトラブルに見舞われることはこの時は知る由もないが) 。そしてweb上で紹介されているものなどを参考にしながら必要な道具、材料の算段に勤しみチャレンジが始まったのでした。

2.実験について

  実験自体は単純です。ドラム缶に容積(約200ℓ)の5%程度(約10ℓ、バケツ1杯)の水を入れ加熱します。水が沸騰するまで充分加熱し、栓をしっかりして水をかけて冷やします。そうするとドラム缶はつぶれます。空き缶でも同様の原理は成り立つので、手軽に行いたければ空き缶でやればよいのです。ただ、機会があればドラム缶でやるに越したことはありません。迫力が大きく違います。実際に見たことがなければこの実験の良さは分かりません。また、空き缶は手で潰すことが可能ですが、ドラム缶は違います。ドラム缶は頑丈なのでつぶれるわけがないと思っている人が意外に多い(何と理科の教員にもいる)のです。それがつぶれるという意外性もこの実験を盛り上げます。ではなぜドラム缶はつぶれるのでしょうか。

 ドラム缶を加熱すると、ドラム缶内部は水蒸気で満たされ、もともとあった空気がほとんど追い出されます。そして、栓をして急激に冷やすと内部の水蒸気が凝縮して水に戻ります。つまり真空ポンプなどで空気を抜くのと同じ効果が得られるわけです。理想的に100℃の水蒸気が同温・同圧で水になった場合、体積は実に約1700分の1になってしまいます。でかすら、ドラム缶の栓がしっかり閉まっていれば、ドラム缶内部は急激に圧力が低下し、ドラム缶内外の圧力のバランスが崩れるわけです。

 私たちの住む地球上では大気圧は1気圧と表現しますが、この圧力は普段は意識しないものの1uあたり約10tの重さがかかるのと同じです。この圧力は私たちの上にのしかかっている空気の重さに由来しますが、そんなに大きな力がかかっても私たちがつぶれないでいられるのは、それとつりあう力で内部から押し返しているからです。したがって、私たちの体を圧力のない空間、例えば宇宙空間などに持っていくと圧力のバランスが崩れ大変なことになります。当然地上に置いたドラム缶にも常に大気圧はかかっていますが、内外の圧力バランスが取れている間は問題ありません。しかし、ひとたびバランスが崩れ、上記のように内部の圧力が下がると、外からの大きな圧力を受けてしまいます。ドラム缶の表面積が約1.6uですから、ドラム缶内部が理想的に真空状態になると大気圧によって約16tの重さが周囲からかかったのと同じことになります。もちろんこの実験では完全に真空になるわけではないので実際にはもう少し小さな力になりますが、大きな力であることに変わりはありません。この力は圧力なので上からだけでなくドラム缶のあらゆる方から均等に力がかかります。以上のような理由でドラム缶はつぶれてしまうということになります。

3.直前に予備実験

  自分では難関だと思っていたドラム缶の準備、廃棄も、業者の方にやって頂けるということになり、本番2週間前の担当者打ち合わせでも特に問題はありませんでした。後は本番を待つのみと高をくくっていたら、10日ほど前になって実行委員会からドラム缶つぶしを見合わせて、1斗缶でやってもらえないかと連絡がありました。業者が実験の内容に不安を抱き道具(プロパンガスのボンベ等)の貸し出しを渋っているのだとか。よくよく伺ってみると、業者だけでなく実行委員会でも実験を不安視する意見があり、何でも一番の懸念材料は、私に経験がない(こんな実験の経験がある方が珍しいが)ことなのだそうです。何でこの時期になってと思いながらも、ここで諦めたら2度とチャンスは廻ってこないと、実行委員会のメンバーに、この実験は1斗缶では意味がないこと、他の県の科学の祭典では既にたくさん実施例があり気を付ければ安全面でも問題がないことなどを訴えました。その結果、力説の甲斐もあり、実行委員、科学館長、消防署、業者の立ち会いの下で予備実験をし、問題がなければ実施しても良いとのことでした。ということで、本番直前の11月10日(月)予備実験をすることになったのでした。

 予備実験の日は雨模様で実験への影響が気になりましたが、関係者に都合を合わせってもらっていた関係上延期はあり得ません。皆がそろう前にボンベに火を入れてドラム缶を熱し始めました。本などで読んでいるだけなので原理とやり方はだいたい解っていても、実際に実験したことがないので、詳細は手探りです。ここだけの話ドラム缶のふたをどうやって閉めるのかも知りませんでした。ドラム缶のふたは上部の縁に2箇所内側向きの突起があって、その突起に引っかけて回すようになっています。最初は金槌とのみで叩こうかとしていたのですが、科学館の方が近くのガソリンスタンドに問い合わせると、専用の道具があり貸してくださるということだったので、それを借りて使いました。この道具が優れもので、これがなければ実験はうまくいかなかったでしょう。

オイル臭かったのでドラム缶の中を洗う
加熱装置一式 コンパネを敷いて設置 ドラム缶を置いて コンロ確認 水も用意
ボンベに繋ぐと 消防車来る 関係者一同 いよいよ水を注入 点火 消防署員もしっかり監視 さあどうなるやら

 ドラム缶を30分以上熱していると、ドラム缶上部の穴から蒸気が上ってきます。集まっていた方々は実験が始まるのを待っているようですが、実は、どこまで熱したらよいのか解りませんでした。集まっていた方々には申し訳なかったのですが、この予備実験で失敗は許されないので、さらに時間をかけて蒸気が勢いよく出てくるまで待ちました。熱し始めてから35分を過ぎて、かなり蒸気の勢いが増し、ドラム缶の上部に溜まっていた水(この水はこの時はドラム缶に水を入れた時漏れたもの)もほとんど蒸発している状態になったので、いよいよふたを閉めることにしました

熱くなってる? まだですよー でも少し熱い やっぱり変化なし まだかな ほら蒸気が
蒸気が勢い良く 天板も熱くなってきた さらに蒸気が勢い良く 予備の水も念のため いよいよ火を引いて ガスの元栓確認

 思い切りふたを閉めて、ホースで水をかけようとしたら科学館の職員が水をかけてくれました。私はこの時点で傍観者となったのですが、水をかけてもほとんど変化がなく生きた心地がしませんでした(本当は散発的にドラム缶の少し凹む音がしていたのですが)。 長い長い時間(といっても実際には1分半ほど)経った後、突然大音響と共にドラム缶がつぶれました。その瞬間うまくいった安堵と共に大きな音にびっくりしたこともあって自然と腹の底から悲鳴のような大きな笑い声が出てしまいました。百聞は一見に如かず。実験の大切さを改めて知らされた瞬間です。本来この企画は子ども達に日頃見せられないような実験を見せることが目的なのですが、この時は自分のためだか子ども達のためだか、解らなくなっていました。言い訳が許されるとするなら、やってる本人が楽しくないと見てる人を楽しませることはできないということを声を大にして言いたいのですが。こうして予備実験は大成功に終わり、実行委員のお歴々も実験の安全性を確認して頂き、無事本番にOKが出たのでした。

こんなにつぶれた すごかったね さあお片づけ ドラム缶の栓を開けると勢い良く空気が入る 祭りの後

4.いよいよ本番

 11月15日の朝、出がけにガスコンロを自宅に忘れて引き返すというトラブルがあったものの、無事準備をすませ本番を待ちました。2日間で6本のドラム缶をつぶす予定なので、綺麗に色の塗られたドラム缶が6本スタンバイしています。私達のブースは科学館入口の階段下で、正面から隠れているもののただ一つの外のブースなので目立つだろうと言われていました。ところが、オープニングセレモニーが終わり、入場者が係の誘導で正面入口の階段に移動したら、私達のブースの周りは誰もいなくなってしまいました。まだ開場前の時間で、階段上の入場口は閉まっており、階段下のずっと向こうまで開場待ちの長蛇の列が続いています。でも私達のブースには誰も来る気配がありません。このまま誰も見てないのに実験するのだろうかと途方に暮れていたら実行副委員長が私達を見て、「学校じゃないんだから呼び込まないと子どもは集まってこないよ」と追い打ちをかけます。誘導の方法が悪いんじゃないのと思いながらも、列に向かって拡声器で呼びかけに行きました。

 開場後すぐに1回目の実験を行う予定でしたが、開場になってもほとんど人は集まりません。それで少数ながらも集まっている方には少し待って頂き、再度館内に呼びかけに行きました。この時点で、予期せぬ事態に私は相当焦っていました。戻ってみるとさっきより人が集まっていましたが、驚いたことに某公共放送テレビ局のカメラが来ています。この時点で私は舞い上がってしまいました。実際の実験は、原理をうまく理解してもらうためコンロに点火してドラム缶を加熱し始めてから実験原理の説明をし、それが終わってからドラム缶をつぶすという段取りでした。ところが、あらかじめ想定していた実験原理の説明が、初めてということもあり学校の授業では経験しないほど頭の中が真っ白になったため、何を説明しているのか解らないくらいしどろもどろになってしまい、予定より早く終わってしまいました。相方も私の動揺が伝染したのか、説明が終わってそれほど時間が経たない内に、もうつぶしにかかっても大丈夫とOKを出しています。私はよく確認もせずにコンロを引いてドラム缶のふたを閉めました。もうこの時は、心の中にドラム缶はつぶれないんじゃないかという悪い予感がよぎっていましたが、賽は投げられています。ホースでドラム缶に水をかけ始めました。ところが、悪い予感は当たり、ドラム缶に一向に変化は見られません。心の中で必死になって、予備実験でもつぶれないと思っていたが1分半でつぶれたと言い聞かせて水をまき続けましたが、ドラム缶はうんともすんとも言いません。水をまき初めて2分が過ぎたとき、実験は完全に失敗に終わったことを認めざるを得ませんでした。

 実はこの時、長男が友達を連れて見に来ていたのですが、その友達から「あーあ」という声が聞こえてきました。絶望の中で私は、「すいませんでした。実験は失敗です。」と謝罪しました。心配して見に来ていた、実行委員長、副委員長が「あせっちゃだめだよ」とだめ出しです。気を取り直して、観覧者に「1時間後にもう1回チャレンジするので来てください」と情けないお願いをしてとりあえず解散してもらいました。カメラでスタンバイしていた放送局の人が舌打ちして去っていきます。一方、観覧者の一人のおじいさんが「もう一度来るから」と励ますように声をかけて去って行かれます。地獄に仏とはこのことだなと思いました。原因を考えてみましたが、やはりドラム缶を加熱する時間が足りなかったという結論に達しました。そこで今度は、ドラム缶を充分加熱してもう大丈夫というところで説明を始めることにしました。

 もう、テレビカメラは来てません(そりゃそうか)。今度はうまくいくだろうか。1回目からの失敗ですっかり意気消沈し、自信をなくししていた私は、ホースで水をかけながら疑心暗鬼になっていました。長く感じた間水をかけ続けていると、1分と少しで、ドカンという音と共にドラム缶はぺしゃんこにつぶれました。驚きの悲鳴と共に、大きな拍手をしてくださる観覧者の方々。あー良かった。とりあえず安堵です。また見たいというリクエストもあったりして私はすっかりいい気分になりました。

 最初の失敗が嘘のように、それからは失敗することもなく回を重ねることができ、それにつれて私の実験解説の要領も少しづつ向上していきました。最初は少なかった観覧者も回を追う毎にどんどん増え、最後の実験の時は二重三重に人垣の輪ができるほどでした。

あっちだ 早くしないと あーここね たくさんの人 階段の上まで 他のブースの先生も 子供は肩車
先生は椅子の上 実験説明中 前が見えない程 よゆー しっかり閉めて おっとっと 携帯で撮ろうっと
水かけもよゆー ヤジにもよゆー こんな風に つぶれました すごかった 拍手拍手
充分冷まして
熱心な質問者に回答中
こんなに沢山潰しました お片づけ

 それでは予備実験の際のものですが、

ドラム缶つぶしの実験の様子(MPEG動画)(MPEG-4(asf)形式、見られない場合はWindowsMediaPlayerをVersionUpして下さい)

をお楽しみください。

  

5.最後に

 というわけで、いろいろありましたが私にはとても貴重な体験でした。できることなら来年度もチャレンジしてみたいと思います。

 最後になりましたが、機会を与えてくださった実行委員長始め実行委員の方々、道具等の便宜を図ってくださった鹿児島市立科学館の方々、快く道具を提供してくださった鹿児島県くみあい開発鰍iパーク鴨池SSの方、手伝ってくれたH君、ここに掲載した写真、動画を全て撮ってくださったKさん、そして、1回目の失敗にも拘らず何回も観に来てくださり、拍手してくださった観覧者の方々、たくさんの方々の協力がなければ実施できませんでした。深い謝意を表します。ありがとうございました。